エーブル、ベーカー、チャーリー

エイブル、ベーカー、チャーリー・・。我々は日頃名前のイニシャルとか、英単語をスペルアウトする際、アルファベットを間違いなく相手に伝えるために、各文字に対応する象徴的な単語を使う。ところが、ご経験をお持ちの方も多いかと思うが、これが海外では意外にうまく通じないのだ。

かつて添乗業務中、電話でフライトをリコンファームした時、こんなことがあった。

航空会社予約嬢「○○航空予約課にお電話ありがとうございます。担当は私ジェニーです。」

筆者 「えー、私は××グループの添乗員でありますが、私は私のグループのリコンファームをしたい・・。」

予約嬢「はい、ありがとうございます。私どもの何便にご予約でしょう?」

筆者 「うー、714便です」

予約嬢「ではぁ、日付はいつですか?」

筆者 「あー、○月×日です」

予約嬢「はい、けっこうです。では名前を一つください。」

グループの予約に関しては団体名でリコンファームを行うのが適切であるとも教えられたが、実際はこのようにその団体のメンバーの一人の名前を告げて、全体の予約の記録が確認されることが多かった。

筆者 「鈴木です」

予約嬢「それはエス・ユー・ズイー・ユー・ケイ・アイで、オートバイと同じですね?」

日本人の搭乗が増え、外国のエアラインの人たちはこのように日本の主な名前は覚えてしまっていることも多い。

そしてカタカタとコンピューターを叩く音が受話器の向こうに聞こえた。さて、この便には鈴木さんは何人か予約しているようだった。なぜならば次にこのような質問がきた。

予約嬢「では、鈴木さんのイニシャルは何ですか?」

筆者 「キングです」

予約嬢「まあ、キング!オー、鈴木さんは王様ですか!ならばファーストクラスに乗っていただかなければ...」

最近はフルネームを用いるが当時はイニシャルもよく使われた。研修でならった通り、筆者は、鈴木様の名前のイニシャル、アルファベットのKを伝えるのにいつもの「KはキングのK」という意味でキングといったのだ。ところが予約嬢は(もちろん、本当はすべてわかっているのだろう)キングをそのまま「王様」と言う風にとった(ふりをしてジョークをいった)のだ。

またこんなシーンもある。満席のフライトの出発直前、もう大方の搭乗客は座席についている。しかし、スチュワデス数人が何やら深刻な顔をしてせわしなく動き回っている。こんな状態はだいたいシートが二重にアサインされてしまっていて同じ席にすわるべき乗客が二人でてしまったような場合だと思ってよい。耳を澄まして彼女たちの会話を聞き取ろうとしてみる。するとやはり何番の座席があいてるとかおかしいとかいっている。この時の座席の呼び方だが、例えば33Bの席を彼女たちは「サーティースリー・ベーカー」とはいっていない。これは「サーティースリー・ブラーボー」と呼ぶ。

実はこのアルファベットを象徴的な単語で言い表す方法(正しくはフォネティックアルファベットという。)だが、われわれが研修で習い使っているものは原則日本国内、それも大方旅行業界で通用するものだ。海外では直ちには通じないと思って良い。

なぜならば、海外では次のような単語を使うのが一般的になっている。

A アルファ

B ブラボー

C チャーリー

D デルタ

E エコー

F フォックストロット

G ゴルフ

H ホテル

I インディア

J ジュリエット

K キロ

L リマ

M マイク

N ノベンバー

O オスカー

P パパ

Q ケベック

R ロミオ

S シエラ

T タンゴ

U ユニフォーム

V ビクター

W ウィスキー

X エックスレイ

Y ヤンキー

Z ズールー

こんな調子だ。日本のと共通しているものもある。チャーリー、マイク、ウィスキー、エックスレイなどだ。あと、フォックストロットとビクターも似たようなもの。フォックストロットはダンスのステップや音楽のリズムの一種。オスカーは映画のアカデミー賞で知られるが、本来は男性の名前。Sのシエラはアメリカのシェラネバダ山脈のシェラのこと。発音は「シエーラ」が近い。発音でいえばケベックはカナダの州の名前だが、「クーベック」と行った方が、らしく聞こえる。Zの「ズールー」アフリカのズル族のことだ。大切なことは、日本の単語が1音節のが多いのに対し、海外の単語はほとんどが2音節であるということ。この方が騒音で聞き取りにくい時などでもまちがいなく伝わる。ご覧の通り、特徴ある単語が多く覚えやすいので、ぜひ使ってみていただきたい。

ちなみに、日本式の単語を使う際だが、次のように as in を入れて表現するとうまく伝わる。

TANAKA, initial K as in King.

これも知っておくと役に立つ。