攻撃型英語表現


外人と話していて、発言したいのだけど英語でなんと言ったらよいかわからないので、しかたがないので黙っていた。こんな経験がある方はけっこう多いのではないか。添乗中もそうだ。相手方のずいぶんな言い分に、反論したくても思うように言いたいことが言えなくて歯がゆい思いをしたことがある人も少なくないはずだ。そこで今回はそんな時に使えるやや強い調子で自分の意志や要求を伝えるための表現をみてみることにする。あくまでもビジネス会話として、紳士的な攻撃型英語の勉強をしてみよう。

例えばこんなケースだ。日本からのフライトを終えて、最初の目的地に到着。第一泊目のホテルでチェックイン作業に入る。お客様の視線の中、この添乗員は英語がペラペラだという印象を与えなければならない。長いフライトでジャケットのしわが気にはなるが、英会話はびしっと決めたいところだ。

「ABCトラベルの○○グループです。16ツインと3シングルをコンファームいただいております。チェックインを願いたい。」

するとフロントのメアリー嬢、無表情のままパタパタとコンピューターをたたき、やがてこう言った。

「あなたが添乗員の山田さんですか?」

このように不意に名前を聞かれる時はあまりいいことがない。案の定「申し訳ないのですが、お部屋の準備ができていません。しばらくお待ちいただけますか。」と来た。

冗談じゃないぜ、と咄嗟に思ったが、まあ数分のことだろうと思って受け入れた。

5分たった。お客様からそろそろクレームが来てしまう。急がせないとツアーの最初からとんでもないことになる。そこで強いトーンでこう言った。

"How long is this going to take? We have been waiting for almost 15 minutes!"

(いったいどのくらいかかるのですか。もう15分も待っている。)

するとメアリー嬢、こともあろうにこう言ってきた。今夜はオーバーブックしているので、8人を別のホテルに移したい、と。このような時、なぜ白人は全く普通の表情でこれを言ってくるのだろう。悪びれた風もない。我々日本人の感覚だと、ここではそれこそもう泣きそうな表情をして申し訳ない気持ちを全面に表してこれを告げるものだが、彼女たちは決してそんなことはしない。多少の笑みさえ浮かべる。だから、顔の表情と言っていることがちぐはぐで我々日本人エスコートは事態がすぐには飲み込めない。

しかし、このような場合は気を取り直し、落ち着いてこのようにはっきりと言おう。

"I cannot accept that."

(それは受け入れられません。)

そして、こう続ける。

"I am confirmed 16 twins and 3 singles. This is a breach of contract."

(私達は16ツインと3シングルのコンファームをもらっています。これでは契約違反だ。)

「~のコンファームを受けている。」はこのようにI am confirmed~.というとプロっぽい。

主語はあえてweでなくIとした。この方が「添乗員として私が許さん!」という感じが出る。

breach of contractは契約違反。覚えておいて損はないビジネス表現だ。

さて、もう話し合っても埒が明かないようだ。とりえず相手の言い分を聞き入れるとしよう。しかしただで引き下がるわけには行かない。

"What compensation do we get from you?"

(どのように「この損害を」あなうめしていただけるのですか。)

compensationはご存知の方も多いと思うが、「代償」とか「償い」とかを意味し、コンペンセイションと読む。この一文は使える。ぜひ覚えておきたい。

すると大体、部屋のミニバーをオープン(無料)にするとか、フルーツバスケをいれるとか、ホテルのマネージメントから謝罪文をいれるとか言ってくる。無論ここで過大な要求をすることはあってはならないが、相手があまりにも非合理的なことを言っているのだったら、

"That is quite insufficient."

(それではまったくもって不充分だ。)と言おう。

sufficientは充分であるということ。enough同じと思って良い。それの頭にinがついているので逆の意味になり、insufficient「不充分。」

また場合によっては、次の表現も不可欠だ。

"Can I have that in writing?"(文書でいただきたい。)

in writingが「文書で」となる。

どうやらこのツアーでは結局お客様8人にお移りいただいたようだが…

添乗中にはお客様の利益を守るために、時として強硬に対外機関と折衝しなければならないことがある。なるべくなら平和裏に交渉を進めよい結果を得たいものだが、場合によっては相手に対し少し強く出たいと思うこともある。今回ご紹介した表現はどれも概ね上品でビジネスライクなものである。決して感情的に言ってはならない。声を荒げることなく、しかしはっきりと落ち着いて発音することが必要である。それが紳士的な攻撃型英語表現の鉄則だ。