催促の英語

今回は「催促」の表現について見てみたい。我々の業界でのコミュニケーションパターンは、まずサービス提供の依頼、そしてそれに対する応諾(もしくは拒否)からなっている。応諾後には、実際のサービス提供がある。しかし、それがなかなか行われない場合は、サービスの受け手は「催促」をしなければならない。

一番基本とも言えるシーン。レストランで,頼んだ料理がなかなか出てこない。「まだですか?」をどう言うか。いろいろな表現が考えられるが,例えばこのようなのはいかがだろうか。ウェイターにそばに来てもらって、

Excuse me. We are waiting for the fish. But it's taking some time.

「ちょっと時間がかかっているようですが」というニュアンスの、むしろ上品で落ち着いた催促といえる。もっとストレートな言うのなら,

 Excuse me. We ordered fish. But it hasn't come yet.

「まだ来てないんですが・・」 

また、こんなケースもよくある。例えば,食事の途中であるウェイターにオレンジジュースを持ってきてもらうよう頼んだ。しかし、それが時間が掛かっているようなので,今度はたまたまそばにいた別のウェイターに同じことを頼む。しかし、オレンジジュースがダブって二杯来てしまっては困る。

Excuse me. We asked one of your waiters to bring us orange juice. Can you check on that, because it's taking some time?

「すみません。ウェイターの一人にオレンジジュースを頼んだんですが。ちょっと時間がかかっているので、確認してもらえますか。」

We asked one of your waiters… で「ウェイターの一人に頼んであるのだが…」という感じになる。one of your waiters はここでは、はずせない表現だ。

ちなみに、ここにあるwaiterscabin crews(客室乗務員)に言いかえれば,そのまま機内でスチュワーデスとの会話に使える。例えばオレンジジュースはblanket(毛布)に替えたってかまわない。

Can you check on that? は、「ちょっとこの件を調べてもらえますか」で、このシーンに限らずきわめて重宝する。覚えておくと便利だ。

さて、次のプッシュケース。最近ではさすがに少なくなったが,ダイヤル直通の国際電話などがかけられずにホテルのオペレーターを経由しなければならない場合がある。オペレーターにまず電話して、例えばフランクフルトの何番に国際電話をかけたい,という。するとたいてい、つながったら電話をこちらからかけるから、いったん電話を切って待て、と言われる。待つのはよいのだが,これがいつも長い。

Hello? My name is Tanaka in room 303. I asked for an international call to Frankfurt a while ago, and I was told to hang up and wait. But you haven't called me back yet. Is it going to take longer?

「もしもし。ちょっと前にフランクフルトへの国際電話を申し込んだのですが、それから電話を記って待つように言われました。まだ返事がないのですが、もっと長くかかるのですか。」

最後のセンテンス、Is it going to take longer?、「もっと長くかかるのですか」と訳されるが、「あとどのくらいかかりますか」と事実上同じ効果をもつ。

ちなみに、上記のパターンはホテルでの電話を使った依頼の他のケースでもほとんど同じに使える。例えばルームサービスのプッシュ。

Hello? I ordered a room service a while ago. But it hasn't come yet. Is it going to take longer?

「もしもし。ちょっと前にルームサービスを頼んだのですが、まだ来ません。まだまだかかるのですか。」

センテンスの最後に、I am getting hungry. とか、お客様の代わりに電話をしているのだったら、My client is getting very hungry. (私のお客様は、かなりお腹が空いてきていますよ。)等と軽くユーモラスな表現を付け加えるのもよいかも知れない。

さて、フロントなどで呼んでもらったタクシーがなかなか来ないケース。ご経験のある方も多いのではないだろうか。(しかしこれはプッシュしても残念ながら、蕎麦屋の出前になる場合が多いようだが。)ここでThe cab doesn’t come!と言えばもちろん通じるだろう。しかし、会話としてはやや稚拙であり、あまりビジネス的ではない。

I am still waiting for the cab you called for me. Can you call them again and check what's happening?

「呼んでいただいたタクシーをまだ待っております。もう一度電話をかけてどうなっているか確認してもらえませんか。」

先ほどの、can you check on that?と似たような形でcheck what’s happening?を使う。「どうなってるかチェックしてください。」という感じだ。

電話をとったら英語が聞こえる!

今日は、電話をとったら相手が外人だったというケースを見てみよう。

設定は事務所である。何も知らないあなたはいつもどおり受話器をとり、「○○トラベル、海外仕入部、△△でございます!」と元気よく答える。そして相手が定型化したビジネス電話会話のマナーにのっとり一通りの挨拶と儀礼をつくした後、話したい相手に電話をつないでもらえるよう要請してくるのを待つ。

ところがである。電話をかけてくる外国人は、たいていこの基本パターンを無視して、いきなり話したい相手の名前を言ってくる。それもけっこうぶっきらぼうに、名前だけを言ったりする。

Mr. Sato, please.

と、いった風にだ。日本の会社に電話して何やら言ってみてもほとんど理解してもらえない。この事実を彼らは経験則として身にしみて知っている。必要最低限の表現をとり、自分の目的を達成しようということか。

いずれにせよ、あなたにとってみれば外人が話したい相手の名前を言ってくるなんて想定してないわけだから、ほぼ間違いなく何も聞き取れない。電話をとったら何か変な音がした、こんな程度のはずだ。焦るのも無理はない。しかし、まずは落ち着こう。聞こえてくるのは日本語ではない、という事実に冷静に対応しよう。間違えても、ガチャーンときってしまってはいけない。(しかし、このようなケースはけっこうあると聞く。)

相手が言っていることが聞き取れない場合は、Pardon.とかI beg your pardon?とか言え、と学校でならった。確かにそれは正しい。だからここでそう言っても良い。しかしそれではあまりにもスマートさがない。相手の外人に最近の日本の会社は少し違うのだ、というところを見せたい。そこで、ここではこう言おう。

“Whom do you wish to speak to?”

「どなたと話されたいのですか」という訳だ。出だしのWhomWhoでもかまわない。厳密にはWhomの方が正しいらしいが、なんとなくwhoの方が覚えやすいし、そもそもどちらも発音してしまえば大差はない。ところで、かけてきた外人は全然違うことを言っているかもしれない。案外自己紹介しているかもしれない。しかし、何であっても、Whom do you wish to speak to?とここで言って、後の会話に大きな影響が出ることはない。

さて、すると相手は、今度は(もしくは再び)Mr. Sato, please.などと話したい相手の名前を言ってくる。これが聞き取れなかったら(確かに外人の発音する日本語の名前はひどい。)今度こそ、Pardonである。そして「佐藤部長、外線にお電話でーす。」などとつないで差し上げればよい。

しかし、この作業だけでビジネスの基礎ができているとは言いがたい。電話を取次ぐときはかかってきた相手の名前をうかがって取次ぐのが基本だったはずだ。相手が外人であってもこのルールは適用になる。

では、相手の名前を聞こう。日本語だったら「失礼ですが・・」と言えば、名前を聞くことになる。しかしここで、Excuse me.と言っても、間違いなく通じない。では、なんと言うのが正しいか。

Who are you? これでは失格。ぶっきらぼうな聞き方に相手はびっくりしてしまう。

May I have your name? なら、まあ許せる。

しかし、英語圏の会社などではたいていこう言っている。

“May I ask who is calling?”

この礼儀正しい質問に対し相手は自分の名前を名乗る。ところが悲しいかな、外人の名前は難しい。スミスやブラウンだけではない。だから、なかなか聞き取れない。しかしこれが聞き取れなくても、もうPardonはやめよう。この際どうでもいいから、早く目的の人につないであげるべきである。そして保留ボタンを押す前に、

“Thank you. Hold the line, please.”

などと言い作業が終わる。

実際のビジネスシーンでは、相手が不在や電話中である場合なども多く、かけなおしてもらったり、折り返したりすることが多い。これらの表現については紙幅の関係で別の機会に譲ることにするが、最後のセリフについて一言。まあ、どんなケースであっても、電話のビジネス会話はThank you.で終わることが多い。しかし、単にThank youだけでなく、ここでは外国の会社の真似をしよう。

“Thank you for calling ABC Travel.”

と言って電話を切ると、なかなか会話が締まってよいかもしれない。

幸いなことにご紹介した英語のビジネス表現はどれもシンプルで、我々にとってもしゃべりやすいものだ。ぜひ多くの方に使っていただきたい。そして外国人に、最近の日本の会社はいままでと違うぞ、と評価を新たにしてもらおうではないか。