営業や外出の用事で他の会社にお邪魔すると、会社によって来訪者に対する応対方法の違いがわかって面白い。さすが一流会社だと思ったり、立派な会社なのに意外にぞんざいに扱われたり。皆さんのオフィスでの接遇マナーはいかが。ビジネスマナーについては先輩から指導をうけたり研修を受けたりした方が多いと思うが、当然ながらどれも日本語が前提のはず。しかし、昨今日本語を話さないお客様もたくさん来訪される。
外国からのお客様が事務所にお見えになった。当方の山田とアポイントをお持ちのようだ。パンフレットがたくさん詰まっている重そうな鞄。そして来日前に日本ではこうしろと教えられたのか、この暑さの中、上着も脱がずに額にはかなりの汗。夏場の日本セールコールはさぞかし苦行であろう。さて、日本語のオフィス接客マニュアルでは、最初は「○○様でいらっしゃいますか。お待ち申し上げておりました。」というようなセリフが適切であり丁寧だ、とある。そこでこれをそのまま英語にするとこうなる。”Mr. Smith, we were waiting for you.” 一見何の問題もなさそうな表現だが、実はこのセリフ「スミスさん、遅いじゃないですか、待ちくたびれましたよ!」的なニュアンスになってしまうのだ。これを聞いたスミスさんはきっと腕時計に目を落として「俺、そんな遅れたか。」というような表情をするに違いない。
We have been expecting you. が正しい表現だ。Expect(期待する)という表現を使う。これによって初めてお客様を折り目正しく受け付けることが出来る。最初にかける言葉だけに注意をしたい。
さて、お越しいただいたお礼を述べた後、引き続き会議室や応接室へご案内する場合は、こう言ってから歩き出そう。
I will show you to the meeting room. This way please.
show youは「見せる」という意味ではなくて、ここでは「お連れする」とか「案内する」とかの意味になる。ホテル接客英語では基本中の基本の表現である。ボーイさんなどに、I will show you to your room, sir.とか必ず言われたことがあるはずだ。我々もぜひ知っておきたい表現だ。そしてThis way please. が「どうぞこちらへ」にあたる。
応接室にお通しして、面会の相手がすぐには現れない場合は、とりあえずお茶をお出ししてお待ちいただくのが日本の正統派接客法である。お茶をお出ししない、つまり「無茶」である状態は日本語では、道理にあわないことや筋道がたたないことを指す。さらにその状態がはなはだしい場合は「無茶苦茶」という。つまりお出ししたお茶は美味しいものでなければならないのだ。この崇高な接客の慣わしは海外では日本ほどは徹底されていないように思える。気の効いた皆さんのオフィスではコーヒーか、それとも今の時期は冷たい麦茶をお出ししているだろうか。レストランみたいだが、ご希望をお聞きしよう。スミス氏が日本のオフィスホスピタリティに感動すること請け合いである。
Would you like coffee, or iced Japanese tea while you are waiting? と聞く。お待ちになっている間にコーヒーか冷たいお茶でもいかがですか、という具合だ。
ところで、冷やした麦茶はことのほか外国人にうける。あのほのかにこうばしい香りはすがすがしく爽やかでありかつ上品である。この香気と独特の風味が国際的に評価されることに不思議はない。このすばらしいお茶はいかなる種類のものか、という客人の質問にはこう応えよう。
It’s barley tea. We call it “mugicha.” I am glad you liked it.
Barleyとは大麦のことである。この飲み物を日本語では麦茶と呼ぶことも教えてあげて、最後にはお気に召しましたか、と笑顔で結ぶ。これができれば、もはや映画に出てくるオフィスの一シーンだ。
そしてお好みの飲み物をお持ちしたときに、Yamada will be with you shortly.(山田はただいま参ります。)等と付け加える。これでオフィス接遇は完璧になる。
こんなにたくさん英語話せない?絶対そんなことはない。日本人はこと自分の英語の事となるとその力を超過小評価する傾向にある。皆さんのレベルなら今回ご紹介した場面での会話は必ずこなせるはずだ。どうかもっと自信を持って次の外国からのお客様をお迎えしよう。聞いてきたよりも日本の会社はずっと国際的だ、と見直してくれるはずだ。